大判例

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仙台高等裁判所 平成2年(ム)4号 判決

再審原告(一審被告)

大泉機械工業株式会社

右代表者代表取締役

大泉諭平

再審原告(一審被告)

大泉工業株式会社

右代表者代表取締役

大泉諭平

右両名訴訟代理人弁護士

早坂八郎

加藤實

再審被告(一審原告兼亡田村兵太郎訴訟承継人)

田村とよ

同(亡田村兵太郎訴訟承継人)

田村キサ

田村清志

成田フミ

牧野トミ

田村次雄

右法定代理人後見人

田村清志

右六名訴訟代理人弁護士

佐藤欣哉

吉村和彦

主文

一  仙台高等裁判所昭和五五年(ネ)第九三号、同年(ネ)第一一一号株主権存在確認等請求控訴事件の確定判決を次のとおり変更する。

1  原判決を次のとおり変更する。

(一)  再審原告らと再審被告らとの間において、再審被告ら(亡田村兵太郎承継人ら)が再審原告大泉機械工業株式会社の額面株式五〇〇〇株、再審被告田村とよが同四四〇〇株を有する株主であることを確認する。

(二)  再審被告らのその余の請求を棄却する。

2  再審被告らの再審原告大泉機械工業株式会社に対する控訴を却下し、再審原告ら及び再審被告らのその余の控訴をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は一、二、再審とも再審被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  再審原告ら

1  原判決を取り消す。

2  再審被告らの請求を棄却する。

二  再審被告ら

(本案前の申立て)

本件再審の訴えを却下する。

(本案の申立て)

本件再審の訴えを棄却する。

第二  事実及び争点

本件は、株式譲渡契約が株券の交付を欠くものであって無効であり、株式譲渡契約後も譲渡人が株主権を有するとして、譲渡人の株主権存在確認請求を認容した確定判決について、譲受人が、判決の証拠となった株券は偽造であり、当時株券は未発行であったから、株式譲渡契約は株券の交付なしに効力を生じると主張して、右確定判決の取消しと譲渡人の株主権存在確認請求棄却の判決を求めた事案である。

一  争いがない事実

1  再審原告大泉機械工業株式会社(旧商号・株式会社丸兵製作所)の代表取締役であった訴訟承継前の再審被告亡田村兵太郎は、再審原告大泉機械工業の株式一万株を有する株主であり、再審被告とよは同株式九四〇〇株を有する株主であった。

亡兵太郎及び再審被告とよは、昭和四四年一〇月九日、再審原告大泉工業株式会社に対し、右株式のうち、亡兵太郎所有の株式五〇〇〇株及び再審被告とよの株式五〇〇〇株を代金合計一五〇万円で売り渡した。

なお、再審原告大泉機械工業の代表取締役は、昭和四五年八月四日以降、再審原告大泉工業の代表取締役大泉諭平が就任している。

2  亡兵太郎と再審被告とよは、右の株式譲渡契約は無効であると主張し、再審原告らを被告として、①亡兵太郎及び再審被告とよと再審原告らとの間において亡兵太郎が再審原告大泉機械工業(旧商号・株式会社丸兵製作所)の株式一万株を有する株主であり、再審被告とよが同株式九四〇〇株を有する株主であることの確認請求と、②再審原告大泉工業株式会社に対し右株式の株券の引渡請求の訴え(山形地方裁判所昭和四九年(ワ)第二九四号)を提起した。

山形地方裁判所は、昭和五五年二月二三日、①再審原告大泉機械工業に対する株主権確認請求を認容し、②再審原告大泉工業に対する株主権確認請求は確認の利益がないとしてこれを棄却し、また、③再審原告大泉工業に対する株券の引渡請求については、同再審原告が所持する株券は二重発行による無効な株券であって、同再審原告が右株券を所持することは兵太郎及び再審被告とよの株主権に対する侵害行為にはならないとして、これを棄却する判決を言い渡した。

3  右の一審判決に対し、双方が控訴(仙台高等裁判所昭和五五年(ネ)第九三号、同年(ネ)第一一一号)の提起をしたが、仙台高等裁判所は、昭和五九年七月二〇日、①兵太郎及び再審被告とよの控訴に対し、再審原告大泉機械工業に対する控訴は全部認容の判決に対する控訴であって控訴の利益がないとしてこれを却下し、②再審原告大泉工業に対する請求については、株主権存在確認の利益があるとして原判決の一部を取り消してこれを認容し、③株券引渡請求については控訴を棄却し、他方、④再審原告らの控訴に対しては、これを棄却する判決を言い渡した。

4  右の控訴審判決に対し、双方が上告(最高裁判所昭和五九年(オ)第一二五九号、同年(オ)第一二六〇号)の申立てをしたが、最高裁判所は、昭和六二年一一月一〇日、右の各上告を棄却する旨の判決をし、右控訴審の判決は確定した。

5  右確定判決が、兵太郎及び再審被告とよの株主権存在確認請求を認容した理由の要旨は、兵太郎及び再審被告とよと再審原告大泉機械工業との間において株式の譲渡契約がされたが、甲一一号証(再審事件の新甲六号証)等によれば当時株券が発行されていたことが認められるところ、右株式の譲渡契約は株券の交付がないから、商法二〇五条一項により無効であるというものである。

6  亡兵太郎は、平成二年九月二日死亡し、再審被告らが同人の権利義務を相続した。

二  争点

1  再審原告らの主張(再審の事由)

本件確定判決の証拠となった甲一一号証は、その発行日付である昭和四三年一二月九日当時に作成されたものではなく、昭和五二年一一月一六日ごろ印刷されたものであって、偽造文書であることが判明した。

よって、再審原告らは、民訴法四二〇条一項六号に基づき、本件確定判決を取り消し、再審被告らの請求を棄却する旨の判決を求める。

2  再審被告らの主張

(一) 本案前の主張

(1) 再審原告らは、甲一一号証が偽造であることを既に上訴により主張していたから、本件再審の訴えは、民訴法四二〇条一項但書前段に該当するものであって不適法である。

(2) 仮に、そうでないとしても、再審原告らの代表取締役大泉諭平は、甲一一号証が偽造であることを認識していながら、上訴によりこれを主張しなかったから、本件再審の訴えは、民訴法四二〇条一項但書後段に該当するものであって不適法である。

(二) 本案の主張

(1) 再審事由の不存在

本件の株券は、昭和四三年一二月九日当時、既に作成されていた。

(2) 詐欺による取消し

① 再審原告大泉機械工業の代表取締役大泉諭平は、そのような意思がないのに「丸兵製作所はきちんと再建する。兵太郎一家の資産、生活はきちんと守る。」と述べて兵太郎を欺罔し、もって本件株式譲渡契約をさせた。

② 再審被告らは、平成五年六月一一日の本件口頭弁論期日において、再審原告大泉機械工業に対し、詐欺を理由として本件株式譲渡契約を取り消す旨の意思表示をした。

③ したがって、本件株式譲渡契約は、取消しによって失効した。

(3) 錯誤

① 仮に、大泉諭平に前記(2)①のような明確な言辞がなかったとしても、兵太郎が本件株式を譲渡する動機となったのは、前記(2)①のようなことである。

② 大泉諭平は、本件株式譲渡契約当時、兵太郎の右の動機を承知していた。

③ したがって、本件株式譲渡契約は、錯誤により無効である。

(4) その他

本件株式譲渡契約が(a)窮迫状態を利用した譲受け、(b)公序良俗違反、(c)強迫による取消し、(d)信義則違反・権利濫用、によって無効であることは、既に主張したとおりである。

第三  判断

一  新甲五号証(有限会社加藤印刷の売上帳)及び証人加藤四郎の証言によれば、甲一一号証の株券は加藤印刷が昭和五二年一一月ごろ亡兵太郎の依頼に基づいて印刷した丸兵製作所の株券(一〇〇株券五万円)一六〇枚のうちの一枚であること、加藤印刷が丸兵製作所の株券を印刷したのは右の時期の一回だけであり、右株券に記載された株式発行の年月日である昭和四三年一二月九日当時に右株券を印刷したことはなかったこと、以上の事実が認められる。

そうすると、確定判決の証拠となった甲一一号証の文書は、再審原告大泉機械工業の代表取締役の地位を失った亡兵太郎が、昭和五二年一一月ごろ、再審原告大泉機械工業の変更前の商号である丸兵製作所の代表取締役名義で、作成日付を遡らせて作成した偽造の文書であるといわなければならない。

これに対し、証人成田勉の供述中には、亡兵太郎が昭和四三年ごろ加藤印刷から風呂敷包みを持ち帰り、中身が丸兵製作所の株券であると説明した上、これを成田勉に贈与する旨述べ、その後、現実にその株券を見せてくれたとの部分があり、また、甲三〇号証(証人田村清志の証人調書)には、亡兵太郎の養子である田村清志が、亡兵太郎から丸兵製作所の株券を渡されたとの部分がある。

しかしながら、右の各証拠は、証人加藤四郎の証言に照らし、信用することができない。

右の事実によれば、再審原告らは、民訴法四二〇条一項六号に基づき、再審の訴えを提起することができることとなる。

なお、兵太郎の右の行為は刑法一六二条一項に該当するものであるが、これについては行為の時から七年が経過して公訴の時効期間(刑訴法二五〇条三号)が満了し、また、亡兵太郎が平成二年九月二日死亡したことは記録上明らかであるから、再審原告らは、民訴法四二〇条二項により、亡兵太郎につき有罪の確定裁判を得ることができないものとして、再審の訴えを提起することができるものというべきである。

二  これに対し、再審被告らは、本件の再審の訴えは同条一項但書前段及び後段により不適法であると主張する。

しかしながら、再審の訴えが同条一項六号に基づいて提起された場合において、上訴人がその事実を知っていても、その事実は確定しているわけではないのであるから、本件のように、同条二項の要件が判決確定後に具備されたときは、上訴人は、再審の訴えを提起することができるものと解される(最高裁昭和四七年五月三〇日判決、民集二六巻四号八二六頁参照)。

三  また、再審被告らは、詐欺による取消し、錯誤、窮迫状態を利用した譲受け、公序良俗違反、強迫による取消し、信義則違反・権利濫用を理由として、本件の株式譲渡契約が無効であると主張する。

しかしながら、右の主張に沿うかのような甲二二ないし二五号証、三一号証及び三二号証(いずれも亡兵太郎の本人調書)は、乙三号証及び九号証(いずれも再審原告ら代表者の本人調書)、新甲九号証及び新乙四号証(いずれも別件の判決)及び再審原告ら代表者尋問の結果に照らし、にわかに採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

四  以上によれば、再審被告らの請求は、再審原告らとの間において亡兵太郎の相続人としての再審被告らが再審原告大泉機械工業の額面株式五〇〇〇株、再審被告とよが同四四〇〇株を有することの確認を求める部分に限り正当としてこれを認容すべきであるが、その余は失当としてこれを棄却すべきである。

また、再審被告らの再審原告大泉機械工業に対する控訴は、全部勝訴の判決に対する控訴であるところ、これについて控訴の利益を認めるべき事情は見当たらないから、右の控訴は不適法であり、却下を免れない。

よって、結論を一部異にする確定判決を右の限度で変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川良雄 裁判官山口忍 裁判官荒井純哉)

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